『Lili meets Emula―旋光の輪舞SS―』byえふしぃ


多分に妄想と妄想設定と脳内補完を含むこのSSを中の人に送る(嬉しくないかもだけど)

リリ・レヴィナス−このSSの主役。SSSの隊員。最近ミカ小隊に配属された新米隊員。ミカに好意を寄せる。
ミカ・ミクリ−SSSの隊員、リリの上司。今回は出番ナシ(と言って次回があるわけでもない)。
ファビアン・ザ・ファストマン−SSSの隊員。ミカの小隊と同じ任務に就いている。本人の出番はナシ
アーネチカ−SSSのオペレーター。縦ロール。ミカの“アレ”本名は不明。
ペルナ−読めば分かるさ、いくぞー

 永遠の闇の中に見えるのは無数の星達と今しがた出発した母船の巨大な船体のみで、怪しげな動きをするランダーの駆動炎などが見えるはずもない。さらに言うなら、ランダーの駆動炎など近頃は全く見ていなかった。
休暇とすら思えるこの調査、もしかするとこのまま何事もなく終わってしまうかもしれない。何の発見も無く、何の損害も無い。唯一失うのは2週間という時間だけだ。その2週間の間、定期的に探査に出て報告し、時には訓練をしたりして過ごすことになるかもしれない。クルー達は、そんな不安とも喜びともとれる思いを抱きながら、今日も探査を始める。

 この宙域に来てからすでに7日。SSSに報告のあった「黒いランダー」調査の任に就いたミカの小隊だったが、標準時間で1週間を過ぎた今となっても、報告のようなランダーが現れることはなかった。もしかしたらもうこの宙域には居ないのかも知れない。そうだとしたら、完璧に無駄足だ。本当に、ただただ時間を浪費するだけになる。本筋の任務から離れて調査に来たミカの小隊にとって、2週間は貴重だった。いや、その任務が滞っていたためにこちらに回されたのか。どちらにしても厄介な話だ。
 到着してからこっち、調査部隊は発見の無い調査を進め、リリ達実戦部隊は危険とは無縁なパトロールを繰り返す日々が続いている。つまり、やはり何も見つからないということだった。本当に、どこかに行ってしまったのだろうか、あるいはどこかに潜伏しているのか。どちらにせよ、それを判断するのは実戦部隊の仕事だった。調査部隊が何をしているのか、実戦部隊であるリリには良く分からない、知る必要もたぶんない。ただ与えられた任務、「周辺探査と目標の確保」を実行するだけだ。
 まだSSSに入隊したばかりのリリだったが、隊長であるミカや同僚のファビアンに囲まれて着実に力をつけ、最近は任務を任されるようになっていた。その実力は、先日の模擬戦闘でミカの操る<ヴェントゥーノU>に勝利してしまったほどだ。もちろん、ミカが本気ではなかったことはリリも分かっていたのだが、リリにとってそれは嬉しくもあり、また悔しくもあった。いつか隊長と互角に戦えるようになりたい。それが、当面のリリの目標だ。
「船外に出ました。これより周辺探査を開始します」
『ハーミット6、了解。リリ、無理しないでね。危なくなったら帰ってきちゃっていいから』
「…はい」
危険なことなど無いに越したことはないのだが、調査の目的を考えるとそうも言っていられない。何故なら、探しているのは正に危険そのものなのだから。調査の目的で来ているのに手ぶらで帰還するなど、SSSの隊員であるリリ達にとって最も避けなければならないことだった。もちろん危険も避けてしかるべきなのだが、SSSも軍隊だ。危ないからと言って逃げ出すわけにはいかない。たとえ生死をかけたランダー同士の戦闘でも、だ。そうやって命を落としていった隊員の話はSSSの現役隊員からいくらでも聞くことができる。それが名誉だと言う人間もいれば、無謀だという人間もいる。近頃は後者の影響が強いのか、任務によっては危険を避けるよう指示されることもあるそうだ。今回の任務もまたそうだったが、リリは、一隊員として逃げ出すわけにはいかないと決意していた。隊員として認められたという自信と、隊員としての義務感からだったが、同時に、今日もどうせ何もないだろうという思いも、ほんの少しあったのかもしれない。そう、やはり危険は無いに越したことはないのだ。例え何の発見も無くても、任務に与えられた期間の14日を過ぎれば元の任務に戻らなければいけないのだから。このまま何も見つからなければいい、誰も危険に晒されないのならそれでいい。リリは、それが隊員として相応しくない思いであることを知りながらもそんな風に考えていた。同時に、自分が危険に晒されることになったとしても逃げ出すことはしない、その決意も揺るぎないものになった。
 
 ランダーの強固な体に包まれたコクピットで、リリは探査業務と各部の動作チェックを同時にこなしていた。と言っても、探査業務は周囲に異常が無ければすることがないし、まともな戦闘もない今、本格的な動作チェックは必要ない。せいぜい弾数を確認したりするだけだ。元々は厳しい宇宙空間での作業のために開発されたランダーだが、当初の作業という枠を超え、最近では戦闘にも用いられるようになっていた。それまでも巨大な市場を展開していたランダー産業は、以降、軍需によりさらに市場を拡大した。リダレス社、モーテヴァリエ社、ゴディヴァ社、などなど。ゴディヴァに至っては警察機構さえも持つ巨大企業となっていた。それらの企業は今も各社様々なランダーを開発し、常に競い合っている。
 元々、多目的な船外作業用として開発されたランダーは汎用性も高く、それ故にランダーは個々の性能が大きく違う。カスタマイズ性も非常に高い。
 例えば、同僚のファビアン・ザ・ファストマンが搭乗する<グラフライド>。この機体は強力な拡散弾―バーストボール―や速射性の高い主装備―モノマズルバルカン―を搭載しているほか、機体に装備した槍を投げることもでき、移動速度も速い。SSSの中でもトップクラスの性能を誇る機体だ。しかしそれ故に操縦も困難で、ファビアンでもなければ扱いきれないのも事実だった。性能の高いランダーには、腕の良いパイロットが必要だ。逆もまた然り。業界では、そういったトップクラスのランダーとパイロットを、敬意と畏怖を込めて「ハイランダー」と呼んでいる。
もしかすると今回の「黒いランダー」もそんな実力を持つものかもしれない。もしただ単に不審なランダーなら、わざわざSSSまで報告が回ってくることはない。SSSだって正式な国家の軍事組織なのだから、ただ怪しいだけのランダーに構っている暇はない。
 
 リリの操る<ブリンスタ>は、母船からかなり離れた所まで来ていた。振り返ると、星の輝きに混じって母船の誘導灯や外部のセンサーの点滅が見える。この周辺一帯は障害物もほとんど無く見通しも良いために、何週も回らなくとも探査は終わってしまう。それもまた、この任務を休暇と感じる理由のひとつだった。
何の異常も無かったことだし、そろそろ折り返して母船に戻ってもいいだろう。戻ったらミカ隊長に模擬戦闘をお願いしよう、今日こそ本気で戦ってくれるだろうか?そんなことを考えながら母船に通信する。
「周辺環境異常ありません。これより帰還します」
『ハーミット6、了解。気を付けて帰ってくるのよ』
縦にロールした髪が印象的な、オペレーターのアーネチカが笑う。女性の少ない小隊の中で、彼女は新米のリリを可愛がってくれていた。
「は…い」
答えようとしたところで一瞬、本当に刹那の時間、遠くにランダーの駆動炎が見えた気がした。
『どうかした?』
「いえ…何でも…」
言葉を遮るように警告音が鳴り響いた。ランダーに繋がったリリの体を緊張が走る。
『どうしたの!?何かあった?』
アーチネカの声に続いて表示されたのは、高速で近づいてくる黒いランダーの姿。大型のビットに、鋭角で平たいフォルム。ほとんどのランダーのような人型ではなく、蝶のような外見。間違いない。報告にあったあのランダーだ。
≪UNKNOWN機を敵と認識。戦闘基準で各部の異常を精査中……完了。異常なし≫
当惑するリリよりも先に<ブリンスタ>は着々と戦闘準備に入る。
「機体特徴のデータを照合、当該ランダーと確認。戦闘態勢に移行します」
若干の震えを覚えながら、努めて冷静に報告する。
『りょ、了解。大丈夫?』
「はい!大丈夫です」
とは言ってみたものの、見たこともないランダー相手に戦えるのだろうか。提出されているデータは機体の特徴など外見的なものばかりで、装備や性能などは全くわかっていなかった。機体照合してみても、ランダーに遭遇した経験がほとんどないブリンスタのデータベースは貧弱だ。該当する機体は見つからなかった。
「機体照合、お願いします」
 そう言った時にはもう、黒いランダーは随分近くまで迫ってきていた。どんな装備を搭載しているのか、どんな動きをするのか全くわからない。あのビットは分離できるものなのだろうか?それとも補助動力?わからない。初弾はかわして様子を見ようと、停止状態のままで待機する。どんな攻撃を受けても避け切る能力と装備が、唯一ブリンスタには備わっている。ただ、余りにも強力な攻撃には対応できないかもしれないが…。
 相手の攻撃に意識を集中させる。まだ撃ってこない。どんどんと近づいてくる。このまま接近して攻撃するつもりだろうか?些細な変化も見逃すまいと、接近するランダーに全意識を向ける。ブリンスタの有効射程に入った黒いランダーが急停止し、突然通信を開いてきた。音声のみで、パイロットの表情を確認することはできない。
「み〜つけた☆あ〜そ〜ぼ?」
「………誰?」
聞こえてきた声は幼く、リリをひどく不快にさせた。今までも同じような感覚を味わったことがあった。この身体に備わった能力を使うたびにリリを襲った感覚だ。だが、だからと言って機体操作に支障をきたすほどではない。ブリンスタは自分の手足のように自在に動いてくれる。
 戦闘フィールドを展開、こちらが戦闘する意思を持っていることを示す。と同時に後退し、ブリンスタの主装備である拡散弾頭―ポシェットランチャー―をばら撒きながら黒いランダーとの距離を取る。続いて特殊兵装ポッド―ツインテール―を射出、それに合わせるようにばら撒いた弾頭が炸裂し、弾幕が八方に広がる。装填が終わり次第発射、既にフィールドにはブリンスタが放った弾が広範囲に拡散していた。しかし、これだけ明確に攻撃の意志を示しているというのに黒いランダーは何もしてこない。ただただブリンスタから放たれる攻撃を避けるだけだ。故障だろうか?それとも何か意図が?
『リリ!その機体は危険よ!逃げて!』
通信と共に黒いランダーのデータが送られてくる。
<機体名:カストラート、パイロット及び装備他の一切が不明>
カストラート、それが謎のランダーの名前だった。名前以外は何も分からない。つまりそれが、危険ということだろう。
「無理です…もう、フィールドを展開…しました」
『リリ?どうしたの?あなた変よ?』
かすかな異変に気づいたのか、アーネチカは心配そうに尋ねる。しかしその声はブリンスタの発するけたたましい警告音にかき消された。見ると、可視性のレーザーが右腕部分をかすめている。軌道を確認するまでもなく、カストラートの放った長射程レーザー砲だった。幸いにもアーマーへのダメージは無かったが、展開したツインテールは焼き払われた上、ばら撒いたポシェットランチャーはことごとく破壊され、無残な残骸を漂わせるのみとなっていた。
『私はペルナ、あなたを探してここまで来ちゃいました』
次弾装填まで時間のかかるツインテールは頼りにならず、ポシェットランチャーではパワーが物足りない。だからと言ってランチャーを装備してもあのレーザーの的になるだけだ。それでは装填の時間が稼げない。とにかく逃げ場を作るため、ポシェットランチャーを再度ばら撒く。普段は時間稼ぎにしかならない行為だが、それだけでも今はありがたい。次はどうするか、攻めるか守るか、攻めると言ってもあのレーザー砲があっては思うように接近できない。かと言ってこのまま弾頭をばら撒くだけでは勝てそうもない。次は…次は?
そんなことを考えている間に、カストラートは攻撃を再開する。射角の変化する2門のレーザー砲、弱追尾性のミサイル、速度のある3連射弾、それがカストラートの武装だった。それに、あのビットもまだ正体不明のまま。控えめに言っても強敵だ。あのレーザーに貫かれればブリンスタのアーマーはかなりのダメージを受けるだろう。何としても、避けきらなければ。
「びぃ〜む」
カストラートのパイロットは、逃げ回るリリを嘲笑うかのように通信を開いてくる。その声はまだ幼い子供のもの。こんな子供までランダーに乗るのだろうか?何故?しかも何故こんな強力なランダーに?疑問が浮かんでは、接近警報にかき消されていく。こちらは攻撃を凌ぐことで精一杯なのに、カストラートはそうではない。その動きは無意味な余裕すら感じさせる。それにしてもいらつく声だ。

「コワシタイ」

 いつの間にか呟いていた。それも、恐ろしい声で。その言葉が引き金であったように、次々と破壊のイメージが浮かんでくる。引き裂かれた装甲、剥き出しのコクピット。その中に見えたのは、可愛らしいドレスを着たカストラートのパイロット“だったもの”。
「いやぁ!!」
自分の叫び声と警報で我に返った。接近するミサイルを回避、そのままフィールドの外目掛けてブリンスタを疾走させる。
今のは何?わからない。
あれが私の望んだ光景?違う…。
…本当に?

「チガワナイ…コワシタイ…ナニモカモ」

 また呟いていた。今度ははっきりと壊したいという欲望がこみ上げてくる。さっきのようなイメージではない。ただ漠然と破壊の衝動だけが意識を支配していく。
「何…何なの…」
『ハーミット6、リリ?どうしたの?』
アーネチカの通信に答えようとした瞬間、突如ブリンスタが反転し、カストラートへと向かっていく。ブリンスタの通信は全て断たれていた。いまやブリンスタはリリの意志に反して勝手に動いている。

「ハヤク…」

 いや、動かしているのはリリだ。繋がれた身体、握った操縦桿、その感触が教えている。確かに自分が操縦している、と。照準、射撃、装填、回避。全て自分が行っている。回避して照準、射撃、装填しつつ回避、射撃…。カストラートの攻撃をギリギリでかわしながら容赦ない攻撃を加えていく。全てリリの操縦で、リリの意志に反した操縦を行っている。けたたましい警報は鳴り止まず、激しい衝動も収まらない。装甲を引き裂かれ、バラバラになったカストラート。それが、今リリが望む唯一のものだった。

「どうして?何が…起きてるの?」

 リリは困惑の中でひとつだけ確かなことを認識した。これは自分であって自分ではない。自分は、自分とは違う誰かに自分を乗っ取られたということ。これは自分の意志ではない。こんなことを私が望むはずがない。

「チガウ…コレガワタシ…ホントウノ…」

 リリの困惑をよそに、ブリンスタは着実にカストラートにダメージを与えていく。正確無比な照準、容赦ない攻撃。相手のアーマーもそろそろ限界なのだろう。無理な攻撃はしてこず、動きが回避中心になってきている。もしも通信ができたのなら、彼女は懇願したかもしれない。助けてほしい、と。

「フフフ…モウスグ…モウスグダワ」

 確かに、もうすぐカストラートは行動不能になるだろう。でもその後、このワタシはどうする?それで満足するのだろうか?本当にあのイメージを実現するのではないか?リリは、自分の意志では動かない身体の内で思う。それはいけない、とも思う。いっそブリンスタが、自分もろとも破壊されればいい。そう思った瞬間、思いに答えるように警報が鳴り響く。あのレーザー砲だ。ブリンスタは正しい回避行動を取ったが、そこでリリは気づいた。レーザー射角が狭まり、極端に小さくなっている。つまり…避けきれない。
≪警告、アーマーダメージ、残量40%≫
激しい振動と、むせ返るほどの熱気がリリを襲った。警報が今まで以上にけたたましく鳴り響き、各部の異常を知らせるライトが点灯する。動力、関節、兵装、全てに小破を意味する黄色のライトが点灯していた。1撃でこのダメージ、もう1度回避できなければアーマーは消失し、ブリンスタは生身も同然の状態となってしまう。そうなれば、後はシェルシステムに頼るしかなくなる。
幸いにも、機動に問題が出るような損傷は無かった。ある程度のダメージはアーマーで防御できたようだ。回避に専念すればこの戦闘はやり過ごせるはず。相手が消耗するまで待ち続け、その後でゆっくりと機体を回収すればいい。この戦闘の目的は破壊ではないのだから。
しかし、ブリンスタは攻撃を再開した。カストラートを破壊するために。

「やめて!このままじゃ私がやられてしまう」
「ワタシガ?アラアラ…ソンナコトハナクテヨ?」
「…どうして」
「アナタハタダミテイレバイイノ」

 その言葉を受けたかのように、今まで以上の加速でカストラートへと突進するブリンスタ。限界速度ギリギリのスピードだ。ブリンスタとはもう長い付き合いのリリでさえ、こんなでたらめな速さで移動したことはなかった。しかも今のブリンスタはポッドを射出することもなく、弾頭を盾に進んでいるわけでもない。これでは撃ってくださいと言っているようなものだ。カストラートは、その意に答えるかのように、照準をブリンスタに向けていた。

「フフフ…ウッテキナサイ…ソノママジャワタシハタノシクナクテヨ?」

 もうだめだ。その思いと共に今日何度目かの警報がリリの意識を満たしていく。衝撃に備えようにも、自分の体は動かせない。ただただ、衝撃に身を任せるしかなかった。

「オドリマショウ?」

 突然警報が鳴り止み、代わりにブリンスタが大型ランチャーを装備するのが見えた。その銃口の先にはレーザーを照射し続けるカストラートの背面が見える。そこまで認識したところで、リリは一瞬激しいめまいに襲われた。この身体には馴染みの感覚。数あるランダーの中でも希少な装備を搭載したブリンスタを操縦するための身体。ランダーの中で唯一、空間転移を可能にしたブリンスタを操縦するためには、能力強化された人間が必要だった。リリの身体はそのために強化された身体。転移するたびに普通ではなくなっていく身体。それをまた、使ってしまった。しかも、自分の意思とは関係なく。自分はもう、本当に普通ではなくなってしまったのだろう。

「フフフ…」

 ランチャーから吐き出される大型の弾丸がカストラートに押し寄せる。回避行動をとったようにも見えたが、レーザー照射を続けているカストラートはわずかずつしか動かなかった。容赦なく背面へ着弾する無数の弾丸。それらはカストラートのアーマーを削り取り、やがて本体へと着弾する。一瞬ののち、眩い光を発してカストラートが大爆発を起こした。
「……気持ち…悪い」
巻き込まれないよう後退するブリンスタは、ちゃんとリリの操縦に従っている。カストラートの爆破を確認したことで、ワタシは消えてしまったのかもしれない。なおも続く閃光。爆発を起こすのは動力機関だけだと分かってはいたが、リリはパイロットのことを心配していた。さきほどの鮮明すぎるイメージのせいだろうか…。それにしても、アレは何だったのだろうか。突如自分を乗っ取った誰か…。乗っ取った?本当に?もしかして本当に自分だったのでは?わからない…。ともかく、今は自分の身体を取り戻したという確かな自覚があった。もう大丈夫だろう。違うとしても、そう思うしかない。とにかく今は、パイロットとランダーを保護して母船に戻ろう。

「コワシタイ…モット…」

 呟く。同時にブリンスタの操縦も身体の自由も奪われる。安心したこと、不安に思ったこと、自分に疑問を抱いたこと、最後にミカを思い浮かべたこと、全てを呪い、後悔しながら、リリは自分の身体の奥深くへと沈んでいった。
再び目覚めたワタシと共にブリンスタが移動を始める。最後の光景は、燻りながら浮遊するカストラートへ向けられたランチャーの銃口だった。



「モット…」
「…もういやぁ!!」


-終-


 カストラートのパイロットはEmula(ペルナ)と呼ばれる思念体で、リリやツィーランなど“作られた者”に接触するために、乗り捨てられたランダーを操っていた。作られた者は宇宙に元々プログラムとして存在したペルナをコピー、または利用して作られていたために、オリジナルであるEmulaに出会ったことで目覚めた。コピーだったツィーランには固有の自我が生まれたために大した影響は受けなかったが、ペルナの一部(空間やなんかを統括する部分)をいじって入れ込まれたリリは、オリジナルに出会ったことでその部分が覚醒。ペルナの意志(=破壊衝動とか色々)を受け継いだために壊れた。(っていう設定だったら俺は燃える)