『ナツマツリ』   えふしぃ

夏コミにて配布されていた、うちのサークルの本に載せたものです。

随分寝ちゃったみたい。陽はまだ沈みきってはいないけど、もうすぐ完全に沈む。都会と違って家の周りには街灯なんてないから、私の部屋は真っ暗になっちゃう。
何だか目が腫れてる感じがする。まるで、一晩中泣いた後みたいに。そんなに長く泣いたの?私が?何で?
んん〜…。思い出せない…。何でなんだろう?何で私、こんなに泣いたの?

昨日何かあったのかな?

「ま、いっか」
言ってみたけど、心の中は全然晴れない。目は腫れてるのにね。自分じゃ全然思い出せないなんて変だよ。絶対変。

んん〜…。

そうだ!幸に聞いてみよう。幸なら昨日も一緒だったし何か知ってるかも。

「幸〜さち〜」
私の隣の部屋が双子の妹幸の部屋。廊下は部屋よりももっと暗い。それに床も冷たい。
「さち〜サチ〜」
変。いつもならすぐ返事してくれるのに。どうしちゃったんだろう。どこかへ出かけた?でも、幸が出て行くところは見てないし…
「幸?入るよ?」
一応確認してからドアを開ける。
なんだ、居るんじゃん。
「もう!居るなら返事し…あれ?」
廊下から呼んで、ドアもノックして、部屋に入ったのに幸はこっちを向いてくれない。

ずっと椅子に座ったまんま。

こうして真後ろまで来ても振り返ってくれない。
「もぉー幸ぃ?お姉ちゃん何かしたかなぁ?」
別に私は何もしてないんだけど、一応聞いてみる。ちゃんと幸の目を見て…ってあれ?
「…寝てる」
覗き込んだ幸の目はばっちり閉じてた。幸が寝てる机には夏休みの宿題が広がってる。
なるほど…宿題やってたのか。エライなぁ幸は。でも、良く見ると全然進んでないじゃん…。
まぁ今日は風もあって涼しいしね。お昼寝には丁度いいかも。
「私も寝ようかなぁ…」
寝てる幸を起こすわけにもいかないし、悪いけどベッドで寝させてもらお。
「ん…お姉ちゃん?」
と思ったら起きちゃった。残念。
「ごめんごめん。起こしちゃったね」
「それはいいんだけど…」
そう言って目をこする幸は、まだ眠そう。悪いことしちゃったな。
「お姉ちゃん、私に何か用?」
「あ、そうそう。あのね…」

あれ?
何だっけ?
…思い出せないや。

「…?何?」
私の顔を覗き込む幸。その表情はすっごく不思議そう。そりゃそうか、あるって言ったのに私は何も言ってないんだもんね。
「うぅん、何でもない」
「そう?いいの?」
幸の表情が不思議そうな顔から心配してる顔に変わる。
ホントになんでもないんだよ、幸。

ただ…聞きたかっただけ。

「いいのいいの!」
ちょっと大げさに笑ってみる。幸には、心配かけたくない。
「…分かった」
まだ心配顔は消えてなかったけど、幸は深くは追求しない。ホントいい子だよ幸は。
「じゃあ私は部屋に戻るね。まだ…寝る?」
「うん…まだネムイ…」
そう言った幸はもう寝る体勢に戻ってた。しかもいつの間にかベッドに潜ってるし。
「もう…しょうがないなぁ。じゃあご飯の時に起こしに来るからね」
「…ありがとお姉ちゃん」
その声は本当に眠そうだ。全く…。良く寝るなぁ幸は。
そんなことを考えながら部屋を出ようとすると…。

「あぁっ!!」

「わぁっ!!何!?」

幸が「ガバッ」って効果音と一緒に起き上がった。何?何があったの?
慌てて戻ると、幸も慌ててる。
「大変だよお姉ちゃん!」
「何!?どうしたの?」
幸はカレンダーをブンブン振って何か言おうとしてる。
「今日お祭りの日だよっ行かなきゃっ」
そう言ってベッドから飛び出ると、引き出しから浴衣を取り出して着はじめる幸。
幸が放り投げていったカレンダーの今日の日付には丸が付いていて、日付の下に丸い文字で『夏祭り』って書かれてる。

…今日だったっけ?

「ほら!お姉ちゃん何してるの?早く支度して行こうよ〜」
幸はもう帯を結んでる。準備も大詰めだ。
「え?あ…うん」
 何か、違う気がする。何が違うのか分からないけど、でも、何かが違う。なんだろう。また、分からないことが増えた。
 あぁ、でも今は考える時じゃないぞ私。早く部屋に戻って支度しないと、今度こそ本当に幸が怒るかもしれない。

  それこそ口をきいてくれないくらいに。

 居間に降りると、幸の代わりにお母さんが居た。あれ?幸、私より先に支度してなかったっけ?何やってるんだろう。
「恵…。どこか行くの?」
「お祭りに行くの。ほら、浴衣着てるでしょ?」
私の浴衣には紺に白い模様が入ってる。ちなみに幸のは白地に黒いラインの浴衣。どちらも去年のお祭りのために買ってもらったもの。
「…そう。分かったわ」
ん?よく見るとお母さんも和服だ。でも、浴衣じゃない…。これは…。
「誰かのお葬式?」
「…!」
喪服だ。ってお母さん、そんなに驚かなくても…。私が喪服を知らないと思ってたのかな?ちょっと心外。
「恵…あなたもし…」

「お姉ちゃん、遅くなってごめんね」

「遅いよ幸ぃ。何やってたの?」
「ちょっと…ね」
何々?ここじゃ言えないことなの?あ、お母さんが居るから?もう、何隠してるんだろうこの子は。
 それならお祭りに行く途中で聞けば教えてくれるよね、うん。
「じゃあ行ってくるね」
「え…えぇ、行ってらっしゃい…」
 何だかお母さんちょっと寂しそう…。やっぱりお祭り行きたかったのかな?そりゃそうだよね、お葬式よりお祭りの方が楽しいもんね。
「恵っ」
「何?」
もう、私早く行きたいのに。今度は何?
「今ね、親戚の子が来てるの。良かったら一緒に連れて行ってあげてくれる?」
 なんだ、そういうことか。きっとお葬式に連れてこられたんだね。
「いいよ」
「それじゃあ…よろしくね」



「はじめまして、私は恵。こっちは双子の妹の幸」
その子はまだ小さい女の子。これじゃあ、お葬式に出たって退屈するだけだよ。お祭りの方が断然いい。でも、何か複雑な表情してる…。私怖かったかな?
「いもうと?」
 そう言って首を傾げる女の子。幸が私の妹だって信じられないみたい。そりゃあ幸は私と違って可愛いし、今は髪型だって違うけど、本当に妹だ。
「そうだよ。幸は私の妹。あんまり似てないけどね。幸は私と違って可愛いし」
「もう、お姉ちゃん!」
あ、赤くなってる。そういうところも全部可愛いよ、幸。もっとからかってあげようかと思ったけど、もうすぐ着いちゃう。残念だなぁ…他人がいるところで幸を可愛がると反応が楽しいのに…。でもそれはまた今度にしようっと。
「ところでさ、幸。さっきは何してたの?」
そう、私はさっきからこれが気になってたんだよ。幸ったら何してたの?
「え?」
「え?じゃなくて、お姉ちゃんはさっき幸が支度してた時何してたのか聞いてるのっ」
もったいぶっちゃって…。私以外誰も居ないんだから言っちゃえばいいのに。
「あ、あ…そのこと」
「そう、そのこと。ほら、早く言わないと着いちゃうよ?」
もう屋台が見え始めてるのに、幸はまだ教えてくれない。
「あの…あのね…会いたい人が居たの。それで、その人と会えるように頑張ってたんだけど…」
「えぇっ!それで、会えるの?お祭りで?」
あ、会いたい人!?いつの間に…。あぁ…でも幸可愛いしなぁ…モテるんだろうなぁ…。いや、私は別に相手がいることを羨んでるんじゃなくて、幸もとうとうそんな年頃になったんだってことを…。…やっぱり羨ましい。幸じゃなくて、その相手が。
「…うん」
「そうかぁ良かったねぇ幸」
嬉しいのか何なのか良く分からないけど、でも、幸が幸せになれるなら私はそれでいいんだ。だって幸は…

  …幸がどうかした?

「何かお姉ちゃん嬉しくなさそう…」
う…見抜かれてる。
「そんなことないよ。幸が幸せなら私は嬉しい」
さっき感じたことをそのまま伝える。幸は、やっぱり恥ずかしそうに赤くなってる。
「も、もう…またそんなこと言って…。お姉ちゃん恥ずかしくないの?」
「何で?本当のことだもの」
そう、本当に本当のこと。だから私は何も恥ずかしがったりしない。

  本当に本当だよ、幸。

「おねえちゃんおねえちゃん」
女の子が袖を引っ張ってる。何?どうしたの?
「さかなっさかなっ」
女の子が指差す方には金魚すくいの屋台。  もう何人か周りに群がってるけど、すくえた人は誰もいないみたいだ。次々ポイが売れてる。あれ、取れないようになってるんじゃないの?
「やりたいの?」
そう聞くと、コクコク頷く女の子。あぁ、小さい子も可愛いな。
「よし、じゃあお姉ちゃんたちと一緒にやろっか!ほら、幸も」
「えっ…う、うん」


この後も、私達は射的をやったり綿菓子を買ったりしてお祭りを楽しんだ。そして今、私たちは最後を飾る花火を待ってる。あぁ私にもいつか恋人ができたら一緒にこの花火見たいなぁ。でもそれはまだ先の話。それまでは幸と一緒に見よう。
「ね、幸っ」
「えぇ?どうしたのお姉ちゃん」
「なんでもないよ。それよりさ、会いたい人っていつ来るの?」
 幸がお祭りで会いたい人っていうのが誰か分からないけど、私達はお祭りの間ずっと三人だけだった。だから、幸は会いたい人にまだ会ってないんだよね…。もしかしてすっぽかされたとか…?
「実はね、もう会ったの」
「え?でも、誰とも…」
「ううん、そうじゃないの」
わけが分からないよ幸。ちゃんと説明してくれなきゃ。

  じゃあ…どういう…

「おねえちゃんおねえちゃん」
 袖を引く女の子。幸にかまってばかりで退屈しちゃったのかな?でも、今はちょっと…。
「どうしたの?私今幸とお話してるんだけど」
 そう、私は幸と話してるんだよ。ちょっとだけ我慢してもらえないかなぁ…。
「ダレと?」

  …え?

「おねえちゃん、ダレとおハナシしてるの?」

  何…言ってるの?

「おねえちゃん、どうしてヒトリゴト言ってるの?」

  ヒトリゴト?

  私はちゃんとお話してるよ?幸がいる。

  いるよ。幸がいるよ。独り言じゃないよ。

「こ、この子なに言ってるんだろうね。ねぇ、さ…」



        サチ?


      ナンデ?イナイヨ?



ドーン

 花火が上がる。さっきまで幸が横に居たはずなのに、居ない。

  あぁ、そうか。

  きっと会いたい人に会いに行ったんだ。花火は恋人と見たいって、私だって思ったじゃない。

  …。

  あれ…お母さん…お葬式って…

  ナンデ…女の子…預け…

  私昨日泣いて…泣いてた…ナンデ?

病院…幸…昨日?アレ?幸は?

  さち?幸?サチ?



ドーン

また花火。幸はまだ戻らない。

  違うよ。

  もう戻ってこない。

  幸は戻ってこない。



 ナンデ?



ドーン

 花火、終わった…。幸、会えたかな?会いたい人…ここで待ってれば戻ってきてくれるかな?ねぇ、幸?










         「オネエチャン」





というわけでして。「もう1月だってのに夏の話かよ」とか「今頃になって思い出して載せてんじゃねぇよ」とか。
あんまり言わないでください。図星ですから。
これを書いたときのメモには、「夏、花火、浴衣、怖い。双子とか不思議っぽい」って書いてありました。
結果こんな話になったわけですが…。うん、「世にも奇妙な」とかの見すぎだね。
たぶん初の、1人称1視点作品。というか、1視点じゃないと成り立たない話だったんですけども。
どうでしたでしょうか。
ちなみに、何で幸と恵という名前かというとですね、この子たちの親は「女だったら幸恵、男だったら雅幸」と名付けようと思っていたのですよ。
ところが、生まれてきたのは双子だった。(何で知らなかったのかとか突っ込んじゃ駄目)
だから分解して、幸と恵にしたのですが…。姉を恵に、妹を幸にしてしまったのです。
「幸せに恵まれるように」という願いを込められた名前は、分解されて、さらに逆さにつけられてしまったことで、幸が若くして亡くなってしまうという不幸が訪れた。
という裏設定があったりなかったりします。どうでもいいですね、はい。
私は文を書くとき、物凄く設定を作りまくってから書き始めるのです。
だから使われない設定とかがたくさん…。もっと生かすかなんとかしてほしいです。